3年生の2学期から卒業の直前まで、篆刻の授業を卒業制作としてきた。
厳密に言うと「篆刻」ではないのだけれども、名前を自由にデザインをして
彫り込み、最後につまみの部分を成形して持ち帰らせてきた。
だが今年、目から鱗が落ちるような作品に出会った。それは6面全部を使って名前
を刻んだ作品。同僚の国語の先生が大学時代ゼミで作ったという作品である。
これをヒントに授業を行った。
この授業では、いままでのいくつかの不都合が解消された。
一つ目はこれまで、いち早く出来上がった生徒にはつまみの部分の製作に取り組ませてきたが、これでは進度差が解消できず、準備も煩雑になっていた。今回は早くできた生徒は2面3面と彫り進ませることで、進度の差を無理なく吸収できた。全員が1面掘り終えたところで、一斉に印面磨きに入り、一斉に押印に取り組ませることができた。
2面3面と取り組ませると、多様な印面デザインが生まれ、1面彫るだけでは満足できなかった生徒の欲求も満たすことが出来る。さらに1面を彫るときに失敗した生徒も気分を変えてやり直すこともできる。などなど授業をしていて都合のよいことが多かった。つまみを作らないので、発生する石の粉も圧倒的に少なくてすみ、掃除も楽だった。
「石を彫る」という行為において失敗はつきもの。だが、リセットしないと
やり直しが出来ないというような特性を持った生徒には、次があるというのは
気分的に楽。気を取り直して再び製作出来る点は非常に大きかった。
さらに今回、印材に下描きを転写する方法もシンプルにした。まず印面のデザインを用紙に濃い鉛筆で書き、書いた面を印材に当て、裏から鉛筆で強くこする。濃い鉛筆で下描きさえしていれば、くっきり転写される。
いままでは、トレーシングペーパーで下描きをトレースし、裏返して印材にあて、間にカーボン紙を挟んで、デザインをなぞらせる方法だった。この方法では、トレーシングペーパーを裏返さずに転写してしまう生徒が必ず出ていた。気がつかずそのまま彫ってしまって押印して初めて逆さまだったことに気づく。これが防げた。
トレーシングペーパーもカーボン紙も必要なく、濃いめの鉛筆のみ。やり方が簡単なので、2面3面と彫りたい生徒は自分でどんどん進めていけた。
難点はあらかじめ4面分のデザインをさせておく必要があることか…
デザインでは4面を一体的にデザインする計画的な生徒もいれば、4種類のさまざまな書体で彫って見る生徒も表れた。
押印は和紙と印泥(朱肉)を用意、押し方を指導した後 自由に取り組ませた。